「自分がこれまで作曲してきた中で、最も感動的な楽章」 <br />こう語ったというベートーヴェンは、涙しながらこの音楽を作曲したと伝えられます。 <br /> 第九以降の後期弦楽四重奏曲である、第13番の第5楽章「カヴァティーナ」は、 名旋律の多いベートーヴェンが書いた、最も美しいアダージョのひとつです。 <br />これに比肩するのはおそらく、第九の第3楽章ぐらいでしょう。 <br /> 「カヴァティーナ」でのベートーヴェンには、それまでのような闘いの姿はありません。 <br />“苦悩を突き抜けて歓喜へ”といった激しい精神的な奮起や、 自分との闘いといった世界を越えた、別次元の心境を感じさせます。 <br /> 交響曲では描いた理想や理念に徹したベートーヴェンですが、 <br />ここでは自らの胸のうちを開いて見せているかのようです。 <br /> 人生のすべてをあるがままに受け入れ、味わいかみ締めるような趣き。 <br />そこには祈り、憧憬、希求、孤独、感謝、諦観といった矛盾するような様々な感情が、 不思議な統一感をもってひとつの音楽の中に集約されています。 <br /> 苦難の多かったベートーヴェンが晩年にたどり着いた至高の境地です。 <br />フルトヴェングラーはこの楽章を自ら弦楽合奏用に編曲、録音しています。 <br /> 第13番の最終楽章には元々、後に「大フーガ」となる作品が置かれていましたが、フルトヴェングラーはこの曲においても、名演とされる録音を残しています。 <br /> 「大フーガ」はあまりに長大だったため、出版社などが差し替えを促しました。 <br />ベートーヴェンは珍しくそれを受け入れ、新たに軽いタッチの楽章を書きました。 <br />しかしそれはあくまで対応策で、第13番の終楽章はやはり「大フーガ」です。 <br /> 最近では第13番のあとに「大フーガ」を加える演奏も増えています。